有りがたうさん
川端康成の掌小説を清水宏監督が映画化。伊豆の下田港から修善寺までを走る乗合いバスの若い運転手、彼は追い抜いてゆくだれにでも「ありがとう」とひとこと声をかけていく。のたりのたりと道をふさぐ牛車の爺さんにも、小学校に通う子どもたちにも、朝鮮人の女性労働者の一団にも、彼はつねに明るく声をかけて通り過ぎていく。「ありがとう」「ありがとう」運転手は村の娘たちのアイドルであり、人は彼のことを「ありがとうさん」と呼んで親しんでいる。ただそれだけの話である。しかし清水は当時の不況で身を売られる女性、金で財産を失くした男、旅芸人の一行、など昭和初期の風俗を流れるような映像で示している。ロードムービーの元祖ともいえる。昭和6年にトーキーは始まったが、この映画ができた昭和11年頃でも田舎ではトーキーは珍しかったらしい。明るいジャズの音楽も心地よい。悲しい話ばかりだが、最後はハッピーエンドというのも粋な終わり方だ。出演者は上原謙、桑野通子、築地まゆみ、二葉かほる、石山隆嗣、如月輝夫、水戸光子など。築地まゆみ(1920-1937)は昭和7年松竹楽劇部に入り、10年松竹蒲田へ移籍、この作品の翌年12月28日にわずか17歳で他界している。
築地(右)
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