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2013年3月17日 (日)

耳切り団一の話

    ある旅の僧が墓地を通りかかると、やせ衰えた法師が琵琶を一心不乱に弾くいている。盲目の法師の名は団一といい、ある高貴の女に御殿に連れて行かれて琵琶を弾くように命じられたという。それから毎晩琵琶を弾かねばならなくなった。その旅の僧は、話を聞いて、これは亡霊のしわざにちがいないと思い、団一の全身に経文を書きこんだ。そして「絶対に口をきいてはいけない」といいつけた。その夜、迎えにきた亡霊の目には、団一の耳だけがうつった。耳には経文が書いてなかったからだ。亡霊は耳だけを切り取ってかえったが、団一の命だけは助かった。人々は団一のことを「耳切り団一」と呼ぶようになった。

   この話は徳島県鳴門に伝わる伝説であるが、ほかにも四国には「耳切坊主」の話が伝わるし、沖縄にも同様の話が伝えられる。南方系説話とみることができる。「耳切り団一」の話に平家の亡霊のしわざであるという付加的な要素が加えられたのが小泉八雲の「耳なし芳一」である。8歳で二位の尼に抱かれて壇ノ浦の海に沈んだ安徳天皇の墓前であり、平家琵琶の「壇ノ浦の合戦」のもの悲しい調べとともに、聞くものの涙をさそうようになった物語は文学的に高められている。

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