ゴッホ「聖書のある静物」
読める文字の書き込まれた本が画面に登場してくるゴッホの最初の作品は、アムステルダムのゴッホ美術館に所蔵されている「開かれた聖書のある静物」である。この聖書はゴッホの父が所有していたもので、使い古されている。その年、父は死んだ。火の消えたろうそくは父の死を象徴している。父の死の床に、うなだれたゴッホは、ぽっつりと一言いった。「死ぬのはつらい。しかし、生きることは、もっとつらい」と。手前の小さな本は、ゴッホの愛読書、ゾラの「生きる喜び」である。開かれた聖書は、文字からイザヤ書53章であることがわかる。
彼は軽蔑され、人々に見捨てられ
多くの痛みを負い、病を知っている
彼はわたしたちに顔を隠し
わたしたちに彼を軽蔑し、無視していた
彼が担ったのはわたしたちの痛みであったのに
わたしたちは思っていた
神の手にかかり、打たれたから
彼は苦しんでいるのだ、と。
(「イザヤ書」第53章3節、4節)
ゴッホは聖書の「イザヤ書」を開いて何がいいたかったのであろうか。「イザヤ書」第53章全体は、われらすべての「悲しみとなやみ」を担い給う人の子についての預言である。それは当然、救主としてのキリストのイメージにつながると同時に、人々から「侮られ、すてられ」ていたと感じていたゴッホ自身の姿でもある。ハーグで同棲していた娼婦シーンとの結婚問題で、ゴッホは家族から反対され、「軽蔑され、人々から見捨てられ」たと感じたに相違ない。ゴッホがシーンを描いた石版画「悲しみ」には、英語ではっきりと「Sorrow」の文字が書き込まれている。
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