フライパンと目玉焼き
歴史研究は政治的事件や社会制度には目を向けられるが、日常の身近な瑣事にはあまり関心が向けられない。たとえばフライパンで目玉焼きを作るということは誰でもが毎朝やっていることだが、日本人が当たり前に食べるようになったのは100年以上も前のことではない。江戸時代、フライパンのような調理器具はなく、日本料理に野菜を炒めることもなかった。明治になると欧化主義の伊藤博文(画像)らが洋風の食事をしたであろうが、洋食の調理人を除いて、一般婦人が料理でフライパンを使うことはなかった。フライパンは昭和になってモダンな家庭で使われるが、本格的に広まったのは1950年代、アメリカ農務省が栄養改善のため献立には必ず小麦粉を使うという指導が行われ、西洋調理器具も普及してきたのである。
ところでフライパンはいつごろ歴史に登場するのであろうか。原始的な鍋の類であれば旧石器時代からあるが、鉄製の取っ手付きの調理器具となると古代ギリシア時代にさかのぼる(画像)。ローマ帝国では美食が全盛であらゆる料理が生まれた。最も一般的な料理「目玉焼き」はいつ歴史に登場するのであろうか。シェークスピアの作品に「目玉焼き」があるという話は聞いたことがない。18世紀の作曲家モーツァルトは卵が大好きで「モーツァルトの目玉焼き」といえば黄身が6つ並んだ目玉焼きをいうそうだ。欧州の博物館にはフライパンが考古遺物として数多く展示されているが、日本でフライパンを展示してあるところを知らない。長崎のオランダ商館で使われていたフランパンなどはみな母国に持ち帰ったのであろうか。
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