作家の交通事故
アメリカで自動車の本格的な生産が始まったのは1908年のことである。大衆向け自動車はフォードのModelTという角型の自動車だった。1920年代になると大衆車としてサラリーマンが購入できる価格になった。こうして1920年代に自動車が一般に普及すると、自動車事故も増大していった。ジャズ・エイジの作家たち、ヘミングウェイは2度も自動車事故と飛行機事故を起こしているし、ドス・パソスは愛妻を事故で失い、自らは片目を失明させている。フランスのアルベール・カミュは自動車事故のため48歳で亡くなった。スコット・フィッツジェラルド(画像)は事故を起こすことはなかったが、パーティ好きの妻ゼルダともども運転し遊びまわっていた。代表作「グレート・ギャッビー」(1925)にはギャツビーの「黄色いロールスロイス」をデイジーが運転して、夫の愛人をひき殺すという件がある。いわゆる女性ドラバーを小説に登場させたところにも新しさがある。戦前の日本の小説に自動車が登場する場面がほとんどない。ドライバー経験のある作家というのを聞いたことがない。へミングウェイの自殺の遠因は事故による後遺症ともいわれている。
曽野綾子が昭和30年に運転免許をとったとき、「小説家ともあろうものが自動車を運転するとは何事か。姦通や博打をするなら小説はよくなるけれど、自動車の運転は悪くなる」と周囲からさんざんに言われたと語っている。
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