みねんげさんの夜
出雲の国は古代日本の政治的宗教的一中心地であった。旧暦10月は全国の神々が、出雲大社に集まるので、この月は諸国は「神無月」であったが、出雲は「神在月」であるという伝承は、よく知られている。出雲大社では特別な行事もいろいろあるが、そのなかでも神幸祭(しんこうさい)が毎年8月14日の晩に行われる。古伝の神秘的な神事のひとつで「身逃げの神事」とも呼ばれる。装束姿の神官が青竹の杖を持ち、左手には苞、火縄を持ち、神社を巡る。神事の途中に人に会えば穢れてしまったとして本殿に引き返して、神事をやりなおす。そのため、この夜は氏子はすべて謹慎して門戸を閉じて、外出しない習慣になっている。もし神さまの行列に出会うようなことがあると、たちどころに死ぬと伝えられている。
ところが、ある男が「なあに、そげなことがあるもんか」といって、わざと家を出て、道端の並木の陰で待っていた。するとやがて、高張ちょうちんを先頭に、赤竹の杖と真菰の苞と、火縄筒とを持ち、お供をしたがえた神さまの一行がやってきた。男はさすがに気味悪くなって、じっと背をちぢめ、見ていたが、とうとうその姿は神さまに見つかってしまった。「あれはなんだ」とお供の者に聞かれた。お供の者は、はっとしたが、とっさに機転をきかして、「あれは犬です」と答えた。神さまは、「そうか」と言ったが、そのとたん男は本当の犬になってしまった。
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