接木の台
和田芳恵(1906-1977)の短編小説。1974年6月「風景」に発表。小説家の私は5年前に急性肺炎を患ってから体力がめっきり衰えてきたことを感じている。初めの妻は結核で亡くなり、2度目の妻安子は12歳年下である。ある日、電車の中で10年前に別れた元愛人の木原悠子と偶然出会うことになった。10年前の悠子は20歳を過ぎたばかりの速記者で、私は若い女性との心ときめく情事によって、老いの朽ちかけた樹木のように思い込んでいた自分が、悠子の小さな枝を接木して幻の花を咲かせたことを夢見るようになっていったのだった。しかしその夢は長くは続かなかった。若い愛人の存在を妻の安子に知られてしまったのだ。私は愛する妻を棄てることもできずに悠子に溺れている自分の姿を直視して自己嫌悪に陥ってしまうのである。悠子もまた私が妻から離れることなどできないということを感じ始めていた。こうして2人は別れることになった。そういういきさつのあった後に悠子と再会した私は己の老いを実感していながら、それでもなお色っぽく死にたいものだと心の隅で思いあせっていた。
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