古本屋の娘
小山清(1911-1965)は、昭和33年に失語症に陥り、その上、妻の自殺などがあって、昭和40年に53歳で亡くなるという不遇な作家人生であったが、ケペルはその作品の純粋さにとても魅かれるところがある。彼の代表作「落穂拾い」(昭和27年)に登場する古本屋の娘がとても清純である。
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僕は最近ひとりの少女と知り合いになった。彼女は駅の近くで「緑陰書房」という古本屋を経営している。僕は彼女の店の顧客である。主として均一本の。僕はいまの人が忘れて顧みないような本をくりかえし読むのが好きだ。僕はときどき彼女の店に均一本を漁りに行くようになり、そのうち彼女と話を交わすようになった。彼女の気質が素直でこだわらないので、僕としてもめずらしく悪びれずに話すことが出来るのだ。そしてそれが僕には自分でもうれしい。大袈裟に云えば、僕は彼女の眼差しのうちに未知の自分を確認するような気さえしている。こうして僕に思いがけなく新しい交友の領域がひらけた。彼女はみずから択んでこの商売を始めたという。「よくひとりで始める気になったね」と僕が云ったら、彼女はべつに意気込んだ様子も見せず、「わたしはわがままだからお勤めには向かないわ」と云った。
寡作の小山だが女性の古書店主を扱った作品は多く、どうやらモデルが実在していたそうだ。最近の青木正美さんの調査研究によれば、その女性古書店主の名前は「西川清子」というらしい。
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