ある朝、目を覚ますと有名になっていた
Ⅰ awoke one morning and found myself famous.
ジョージ・ゴードン・ノエル・バイロン(1788-1824)は奇行の多い没落貴族に生まれ、父ジョン・バイロン大尉が1891年に死んだあと、6代目バイロン卿となった。美貌だが生来跛という肉体的欠陥を負っていたためか、バイロンの誇りと感受性は傷つきやすく、女性遍歴と放蕩にその充足を求めることになる。キャロライン夫人、オックスフォード夫人とのロマンス、異母姉オーガスタとの不倫の恋。ロンドン社交界での数々の艶聞のため、1816年4月25日、祖国イギリスを去り、再び戻ることはなかった。スイス、ヴェネツィアと転々とした。1823年、ギリシアの独立運動に参加して、ミソロンギに上陸し、そこでマラリアに感染し、1824年4月19日、その波瀾にみちた生涯を閉じた。
今さら口にするまでもないあの頃
1
決して忘れはててしまえるものではないゆえに、今さら口にするまでもないあの頃は、あなたも私も、思いはすべて一つだったが、ああ、わが心ばかりが、今日までも渝(かわ)らぬ。
2
あの時、はじめてあなたの唇が、私に劣らぬ愛を囁いてからは、あなたの露知らず、まして思いも見ぬ、かずかずの悩みが私の胸を噛む。
3
何にもまして胸深く食い入ったこの嘆き、なべて誠なき接吻のように果敢なく、あの恋はすべて過ぎた、という思い、それもただあなたの胸に消えただけ。
4
しかも、私の心がおぼえたある慰めは、いつかあなたが口にするのをきいた時だった。むかしは真実ともおもへた口ぶりで、あの過ぎた日の憶ひ出をささやくのを。
5
慕わしくも、また限りなく惰(つれ)ないひとよ。ふたたび、あなたが愛してくれることはないであろうが、あの恋の思ひ出は生きていると、知るにつけて、私はこよなく愉しいのだ。
6
ああ、私にとっては何とかがやかしい想ひだろう。この心はもはや悔むこともない。あなたがどんな人であろうと、どんなになってしまはうと。ああ、かっていとしくも私ひとりのものだったのだ。あなたは。
(阿部知二訳)
(Lord Byron)
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