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2012年8月 4日 (土)

松本清張忌

000062264_2     松本清張没後20年。清張作品のドラマ化は現在も盛んだが、インターネットや携帯も登場させた現代版も作られている。ところで清張文学は「社会派推理小説」と言われる。高村薫は清張には弱者の復讐心をテーマとした作品が多い点を指摘している。「ひどい目にあわされる側がやられっばなしではない。常に強者になろうとしている。機会あらば強者になろうとしている弱者のまなざし。これは庶民の目線ではないですよね」と。たとえば東宝で映画化された短編集「黒い画集」の中の「寒流」でみてみよう。

    サラリーマン人生には二種類ある。つまり暖流の中にいる者と、寒流の中にいる者である。この小説は暖流の中にいたサラリーマンが、思いもかけないことで、家庭も愛人も出世の道も全てを失い、気づいてみると寒流の中に自分が入っていたという話である。安井銀行に勤める沖野一郎(池部良)は、大学時代の同級生で前頭取の息子の常務・桑山英己(平田昭彦)の引き立てによって、池袋支店長に抜擢された。沖野が、割烹料理屋「みなみ」の女主人前川奈美(新珠三千代)を知ったのは、新任支店長として取引先をまわったときが最初であった。

    ある日、奈美が「みなみ」の増築のため一千万円の融資を頼みにきた。沖野は店の経営状態から判断してその融資を承諾した。それから二人は親密の度を増していった。病弱の妻(荒木道子)を抱える沖野は、奈美の「結婚して」の言葉に心を動かされる。一方、奈美を知った桑山は彼女に一目惚れし、ゴルフに誘う。桑山と奈美は特別に関係となり、まもなく沖野は宇都宮支店に左遷させられる。

    沖野は秘密探偵伊牟田博助(宮口精二)に桑山の素行調査を依頼した。奈美は旧大名屋敷を買い取り六千万円はする店内の改装、それに桑山との情事の日取りまでが伊牟田の調査報告で明らかとなった。沖野はこの資料を総会屋の福光喜太郎(志村喬)に見せた。株主総会で不正貸付とスキャンダルを暴露し、桑山を社会的に葬ろうとした。だが福光が桑山に買収されてしまった。沖野は伊牟田の協力で別の計画をはかる。

    渋谷の「春月」で奈美と会っていた桑山は、盗難車のダッジとは知らず奈美と乗った。自分の60年型ダッジと同じだからだ。二人は沖野の密告で警察に逮捕される。だが銀行は世間体をはばかって事件のもみけしを図った。桑山は左遷されるだろうが、沖野の思うようにもならず、沖野は寒流の真中に自分が入ったことを知って愕然とする。

    あらすじの紹介が長くなったが、沖野の桑山への復讐は一応は成功した。しかし、結局は自分も挫折する。高村薫は続けて言う。「登場人物や設定が日常的だから社会派という冠がついたのだろうけれど、実は生活者は出てこない。犯罪の裏にある社会的背景は、あくまで復讐の舞台。社会派の対極ではないか、と思います」と。確かに清張の特質は、正義の社会派という生半可なものではなくて、清張自身の苛酷な人生体験から生まれた怨念、怨恨、復讐心に起因するように思われる。

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