ペンネーム物語
明治から昭和戦前期までの作家で本名のままという人はめったにない。最もユニークなのが二葉亭四迷。本名・長谷川辰之助は子供のころから本の虫だったため、父親から「お前のようなやつはクタバッテシメエ」とよく怒鳴られたので、それをもじって「フタバテイ・シメイ」としたのは傑作ペンネーム大賞ものであろう。
「次郎物語」で知られる下村湖人。本名は内田六郎だが下村家に養子となった。はじめ虎人(こじん)という筆名を用いたが、スコットの「湖上の美人」にヒントを得て「湖人」とした。
坂口安吾の本名は炳吾(へいご)。中学生のとき教師から「炳は明るいという意味だが、おまえは暗で、暗吾だ」と叱責された。筆名はこの暗吾をもじって安吾とした。
徳冨蘆花の号は「蘆の花は見所とてもなく」と清少納言にあることからきている。
宮武外骨は幼名が亀四郎。亀が外骨内肉の動物であることから「外骨」と改名。獅子文六は「獅子」が百獣の王、「文六」は「文豪=文五」より一枚上という意味。推理作家・佐賀潜のペンネームは、「(真犯人は)探せん」というシャレからきている。複数のペンネームを持つことで異なるジャンルを書く作家もいる。長谷川梅太郎は林不忘、牧逸馬、谷譲次と3つのペンネームを使い分けたし、獅子文六は演劇界では本名の岩田豊雄で活躍した。今岡純代は、栗本薫と中島梓の2つのペンネームをもつ。藤子不二雄は漫画家を目指していたころ、手塚治虫には「足もとに及ばない」ことから「足塚不二雄」という筆名を用いていたことがある。
世界の文豪でよく知られるのは、スタンダールはドイツの小都市シュテンダルに由来する。マーク・トウェインはミシシッピ川の水先案内人たちが言った合図「水深二尋(ふたひろ)」から採った。フランソワーズ・サガンの筆名はマルセル・プルーストの「失われた時を求めて」から取られた。アメリカの推理作家エラリー・クイーンはフレデリック・ダネイとマンフレッド・ベニントン・リーの合作筆名。
最近の作家では、馳星周は香港の俳優・周星馳をひっくり返してつけた。芥川賞作家・赤染晶子は、赤ちゃんのころ、赤染衛門の札をかじったことにちなんでつけた。藤子不二雄は藤本弘、安孫子素雄の共同ペンネーム。桐生操は堤幸子、上田加代子の共同ペンネーム。辛酸なめ子、ろくでなし子、入間人間(いるまひとま)なども珍名。
そこでペンネーム・クイズ。次の本名の文士・作家は誰か?
①福田定一
②松下幸徳
③厚川昌男
④平井太郎
⑤田中富雄
⑥平山藤五
⑦岩瀬伝蔵
⑧杉森信盛
⑨野尻清彦
⑩植村宗一
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答え①司馬遼太郎、②佐賀潜、③泡坂妻夫、④江戸川乱歩、⑤源氏鶏太、⑥井原西鶴、⑦山東京伝、⑧近松門左衛門、⑨大佛次郎、⑩直木三十五
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