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2012年7月10日 (火)

高橋和巳

6_photo01    昭和45年11月に三島由紀夫、昭和46年5月に高橋和巳が相次いで逝った。高橋和巳(1931-1971)は第一次戦後派作家、とくに埴谷雄高の影響を受け、60年代、政治と思想に苦悩する若者たちに支持された作家である。昭和45年には、小田実、開高健、柴田翔、真継伸彦とともに同人誌「人間として」を発刊した。自衛隊市ヶ谷駐屯地にのりこみナショナリズム革命への決起をうながしたが果たさず、割腹自殺をした三島と、学生運動を真摯にうけとめ、自己否定の知的営為と行動を実践して心身ともに疲労した高橋とは対極に見えながらも、両氏の作品には明らかに戦後文学の屈折と苦悩がうかがわれる。高橋和巳の「散華」(「文芸」昭和38年8月号)には、元特攻隊員で電力会社の社員である大家次郎が、鳴門海峡にある孤島の買収のために、その孤島に隠遁している中津清人という老人に会う。中津は次のようにいう。

  わたしは軍人ではなかった。そして、その後、国家の禄を食んでもいない。わたしは、思想家としての自分を罰し、思想家として死んだ。みずから自分を殺さずとも、もちろん、わたしはいつかは病み、いつかは老いさらばえ、いつかは死にはてるであろう。死の瞬間に、だれかが自分を見とってくれる者があればよいと思うかもしれぬ。炭鉱夫の皮膚にこびりつく黒い垢のように、世間的思弁の残滓がわたしらもこびりついて、わたしを苦しめるかもしれぬ。しかし、わたしの苦痛は他者の同情によって癒えはしない。それがどんな苦痛であろうと、わたしの苦痛であるかぎり、わたしはそれを大事にするだろう。快楽も苦痛も、わたしは人に売りわたしたくはない。そして髪の毛一本なりとも、国家のためにも、階級のためにも使いたくはないのだ。わたしは、国家を、世界を、民族を、聚落を、人類を拒絶する。

   高橋和巳は、昭和6年8月31日、大阪市浪速区貝殻町3丁目13番地に父・高橋秋光、母・高橋慶子の次男として生まれる。世代的にいうならば、大正14年生まれの三島由紀夫よりも、昭和7年生まれの石原慎太郎、小田実に近いといえる。昭和46年、39歳の若さで病死。

   なお、「散華」は、生田直親脚色、大山勝美演出でテレビドラマ化されている。岡田英次、加藤嘉、阪口美奈子の出演。(昭和38年7月10日)

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