鹿苑寺と慈照寺
銀閣は鹿苑寺の金閣と共に誰もが名を知っている古建築である。何故そんなに有名なのだろうか。それは金と銀に飾られた建物だというので世人を驚かしているのである。成る程金閣では上層に金箔のキラキラした美観が見られるが、銀閣では何処を見ても銀色は見出されぬ。我々の見るのは上層に黒々とした漆の色である。戦後文壇の代表的作家三島由紀夫には「金閣寺」という傑作がある。豪華絢爛な金閣寺が炎上する物語は外国人受けする。そして三島のよき理解者ドナルド・キーンには「足利義政と銀閣寺」という好著がある。キーンは司馬遼太郎との対談でこのように語っている。「日本人の趣味からいうと、どうも金よりも銀のほうが合っているような気がする。金のような温かい黄色い色よりも、銀のほうが合っているような気がする。銀のような淋しい色のほうが日本的かもしれない」司馬遼太郎もこれにあわせて「義満の金に対して義政の銀の文化」といっている。(「金の世界、銀の世界」『日本人と日本文化』所収)つまり2人は銀=日本人の美意識、つまり魂と分析し、日本文化論を説いている。だが金と銀とを対比しながら日本文化の深淵を説明するのは、俗受けするものの、事実とは大きく異なる。近時の科学的調査の結果、創建当時から銀閣には銀箔が施されていなかったことがわかった。「金の世界、銀の世界」は妄言である。
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