あいまいな敵味方
「荒野の決闘」のドク・ホリディ役で知られるビクター・マチュアは米ルイスビルの生まれだが、もともとはスイス移民で鋏とぎ師の息子。「心の旅路」のロナルド・コールマンはイギリス・リッチモンドの生まれ。「ポセイドン・アドベンチャー」のアーネスト・ボーグナインの両親はイタリア人。「タイタニック」のレオナルド・デカプリオの父はイタリア系アメリカ人で母はドイツ人。「荒野の七人」のユル・ブリンナーにいたってはサハリン生まれということだけで、両親のルーツは謎である。
ざっとアメリカ人の映画スターをみても、容貌からもともと家系が何人であるか判断することはなかなか難しい。ヨーロッパ人は髪の色、眼の色、鼻の形などちがう人たちが共存し、お互いの違いをあまり気にしない。だからヨーロッパ人同士の戦争のときはたいへんである。たとえば、第二次世界大戦末期のとき、おもしろい事件があった。
1944年春、ナチスは西部戦線最後の総攻撃を計画し、英語の達者なドイツ兵がアメリカ兵の制服を着用し、ジープに分乗し、アメリカ兵にまんまとなりすました。アメリカは要所要所に憲兵を配置して、少しでも怪しいと思われる人物をかたっぱしからとり調べた。憲兵はアメリカ人なら当然知っていそうな常識を質問の題材とした。スラングの意味をたずねたり、ネブラスカ、イリノイなどの州都を答えさせたりした。なかには、「ベーブルースのホームランの本数は?」とか「オーバー・ザ・レインボーを歌え」というユニークな質問もあった。ところが、困ったことに、ほんもののアメリカ人であっても、これらの質問に答えられない者も少なくなかった。彼らは何時間もの間拘置されて、やっと釈放される始末だった。(参考:鯖田豊之「ヨーロッパ中世」)
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