映画「真実一路」を観ての複雑な心境
近代小説のなかで長く愛読されるものといえば、夏目漱石の「坊っちゃん」、下村湖人の「次郎物語」、そして山本有三の「路傍の石」があげられる。いずれも映画化され大衆的な人気を得たが、とくに後の2本は杉幸彦、杉裕之、片山明彦ら子役が主人公である。児童問題に関心を持つ山本有三作品には、「真実一路」でもそうだが、少年が登場する。「真実一路」の日活作品では片山明彦、戦後の松竹作品では水村国臣が演じている。「真実一路」は「主婦之友」連載小説であり、児童文学とはいえないが、後年、「路傍の石」と並び称されるため、人生を前向きに生きる作品と思われがちである。再映画化された川島雄三監督「真実一路」(1954)をみたが、複雑な人間関係になかで真実に生きようとする文芸作品に仕上がっている。苦悶のすえに貧しい発明家津村(須賀不二男)、むつ子(淡島千景)は自殺する。井上靖の「しろばんば」でもそうだが登場人物がよく自殺する。人道主義や理想主義をかかげながら、あまり社会体制に対して疑問を提起しないのは当時の強い制約があるからであろう。ある世代の郷愁として鑑賞される作品なのかもしれない。
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