カミュ「異邦人」
アルジェの船会社に勤めるムルソーは、町のどこにでもいるような平凡な青年である。養老院に入れた母親が死ぬが、通夜に出席しても彼は涙ひとつ見せず、煙草を吸い、コーヒーを飲み、眠りこんでしまう。埋葬のとき母親の年を尋ねられても正確に答えられないし、周囲の人物の様子に気をとられている。アルジェに帰ると喪章をつけたまま海水浴にでかけ、浜辺でマリーという娘と出会い、夕方喜劇映画を見たあと夜を共にする。事務所ではよく働くが、栄転の話がでると断わってしまう。またマリーを愛しているわけではないのに、せがまれると結婚を承諾する。 ある日やくざ者のレイモンに手紙の代筆を頼まれ、それがもとでその情婦とのいざこざに巻き込まれ、招待されていった先の海岸で、彼とはなんのかかわりもないアラビア人を射殺して逮捕される。裁判の過程でこうしたムルソーの行為は、予審判事、検事といういわば伝統的価値の擁護者によってひとつひとつ検討されていく。彼らは行為のあいだに意図的な繋がりを見出し、悪しき本能が彼を殺人に導いたことを証明しようとする。彼らはしかし、すべては偶然のなせる業であると述べ、殺人の動機を太陽のせいにして、なんら悔悛の情を示さぬムルソーを、理解できぬままに、社会の敵、怪物とみなし、社会秩序の名のもとに死刑を宣言する。 ムルソーは不自由な牢獄の生活にもすぐ順応してしまうが、終盤近く彼を神の手に縋らせようとする告解僧にたいして怒りを爆発させ、それまでの自分の生き方の真実性をはっきりと自覚する。そして星空を眺め、そこに自分と同じ無関心のしるしを認めて、意識的に世界に向かって心を開き、幸福だと思う。
1951年に発表されたカミュの「反抗的人間」は大きな反響を呼び、サルトルとの間に論争がおこり、やがて2人は絶交してしまう。1957年にノーベル文学賞を受賞するが、1960年1月4日、パリに向かう途中、ヨンヌ県ヴィルブルヴァンにおいて自動車事故で死んだ。日本でタレントとして活躍するセイン・カミュは甥にあたる。(参考:「世界の文芸と主役総解説」)
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