寺尾勇と岡田弘子
「清張日記」を読む。昭和55年1月から昭和57年11月までの読書日記、取材メモなど。いまなら松本清張オフィシャル・ブログか。昭和56年5月5日(火)の記事。
奈良女子大学名誉教授某氏の「奈良散歩」を読む。その文学的主情過多に閉口する。かかる抒情性の過剰ないし感激性は、亀井勝一郎「大和古寺風物誌」や某女流随筆家の奈良紀行文についても云えることなり。亀井氏は和辻哲郎「古寺巡礼」を追いたるならんも、及ばざること遠し。同じ奈良女子大学の教授たりし婦人の「古京の芝草」は、戦前に読みて、その万葉集を織りたる紀行に感心せり。著者は野上弥生子の弟子たりとたしかその序文にありしと憶ゆ。いま、その名を思い出せず。わが貧架にもその本見当たらず。近時、奈良女子大卒の人に訊けど、その名を知らず。
この記事で2人の匿名の学者が挙げられている。清張に主情過多と評された人は、寺尾勇(1907-2002)である。寺尾は奈良教育大学名誉教授で美学者、94歳で亡くなっている。奈良・飛鳥の景観保存でよく知られた。「奈良散歩」は昭和25年に「あしびや出版部」から、昭和43年に「創元社」から刊行されているが、清張が手にしたのは創元社版であろうか。清張が若き日に読んだ「古京の芝草」の著者は岡田弘子である。昭和16年に立命館出版部から刊行されている。岡田のことは、歌集「やせ猫」(昭和13年)の著作があること以外、生没年すら不明である。
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