海におちたピアノ
海の底では魚たちがゆっくり泳ぎまわっていました。そこへいきなり大きな音がしたかと思うと、まっ黒なピアノが海に落ちてきました。魚たちは珍しがって、集まってきました。そして口ぐちに「なんだろう?」と言いました。お母さんのウナギは、「これは鏡台ですよ」と言いました。そこへ一匹のアジがきて「これはなにか食べ物ですよ」と知ったかぶりをしました。波がピアノをゆさぶと、
♪ボロン、ボロロン
と音楽がひびきます。朝がくるとトビウオが群れて、こわれかけたピアノの箱で遊びます。
♪ボロン、ボロロン
ピアノの音を、陸の桟橋のところまで聞きました。
「ねえ、あれはなんだろう」
「あれは、きっと、人魚が歌っているのよ」
♪ボロン、ボロロン
でもたった一人だけ、悲しそうに海の底を見つめている人がいました。それは、海に落ちたピアノの持ち主だった女の人です。やがて夏がすぎて、秋が来ました。そしてピアノは海の底へ流されていきました。それっきり、桟橋のあたりでは音楽は聞こえなくなりました。(ストリンドベリ童話集)
« 猫の目を通した文明批評 | トップページ | NHK連続テレビ小説と原作者 »
「昔話・民話」カテゴリの記事
- マザー・シプトンの洞窟(2018.03.24)
- バアルの神殿(2018.03.20)
- 神に頼るな。自力で突破せよ!(2017.02.09)
- 運命の赤い糸の伝説について(2020.04.13)
- 幻獣バジリスク(2016.08.26)
コメント