バナナと木の花
セレベス島のポソ地方のアルフール族には次のような昔話が伝えられている。
大昔には天地のあいだは、今よりもずっと近く、人間は創造神が縄に結んで天から下ろしてくれる、贈り物によって生活していた。ある日のこと、創造神が石を下ろしたところが、人類の始祖の夫婦はそれを受け取ることを拒否し、何かほかの物が欲しいと要求した。神がそこで石を引き上げ、今度はバナナをおろすと、夫婦は喜んでそれを食べた。すると、天からつぎのように言う声が聞こえてきた。「石を捨ててバナナを選んだのだから、お前たちの生命は、子供をもつとすぐに親の木が死んでしまう、バナナのようにはなかいものとなるだろう。もし石を受け取っていれば、お前たちの生命は石のように永久に続いたであろうに」
この話は日本神話の高天原より日向に降臨したニニギノミコトの婚姻物語と類似している。ニニギはコノハナサクヤヒメという美女を見初め、結婚の申し込みをした。オオヤマツミはたいそう喜び、コノハナサクヤヒメに姉娘のイワナガヒメをそえて奉った。ところがイワナガヒメは醜女であったために、ニニギは彼女を嫌って、父のところに送り返し、コノハナサクヤヒメだけを留めて、これと一夜の契りを結んだ。オオヤマツミは「天の神の御子のお命は、木の花のようにはかなくなるでしょう」といった。
この2つの話はきわめてよく似ている。南洋の類話におけるバナナが、日本で木の花に変わっているが、南洋から日本へ伝播されたものであろう。(参考: 吉田敦彦「日本神話の源流」)
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