ふるさとの文学とは何か
田宮虎彦は高知には何度も帰省していたが、実際には小説「足摺岬」を書くまで一度も現地へ行ったことはなかった。足摺岬は自殺の名所として知られていたので、小説の舞台に一番ふさわしいと考えたのであろう。田宮が足摺岬を訪れたのは小説を書いてからだいぶんあとのことである。しかし足摺岬には田宮虎彦の文学碑があるし、文学のふるさとの地として認めることは首肯できる。これとは反対に、村上春樹の小説には阪神間と思われる風物が甲山はじめ多く登場するが、具体的な地名が記されていない以上、あくまで想像上の世界であり、ふるさと文学の対象としてみることは、学問上のことではなく、好事家の趣味の領域であると考えられる。
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