岸恵子の見た新星マリア・シュナイダー
世界的にセンセーショナルを捲き起こした「ラストタンゴ・イン・パリ」をパリのプルミエで見た一人の日本人女性がいた。この夜の招待客は、そうそうたる知名人ばかりで、ジェラール・ウリー監督とミシェール・モルガン夫妻、ミッシェル・ドロワ夫妻、そして主役の新星マリア・シュナイダーがいた。岸恵子はフランスの映画監督イヴ・シャンピとともにこのプルミエに出席していた。
彼女、母親らしいひとと来ていて、大抜擢をうけたこの夜の主役にしては、一見、実になにげない普通のブルジョワ娘といった感じでした。顔にひとはけの化粧もなく、耳のあたりでプツリときりそろえてある栗色の髪の下の細いうなじが、青白く、むしろ、いたいたしいような感じ。ジーパンに今はやりの、スキー場で着るような極太毛糸でザクザクと編んだ、背中と腕にいれずみのような模様のある上衣を無雑作に着て、無雑作といえば、なにもかもが無雑作にみえる女性、というより乙女でした。
抜粋した箇所だけ読むと、年配女優の意地悪い観察記録にとられるかもしれないが、岸恵子自身はこの映画「ラストタンゴ・イン・パリ」を賞賛しており、芸術かポルノか、という論争には、進歩的な姿勢をみせており、マリア・シュナイダーに対しても、新しいタイプの女優が登場したことを喜んでいるようである。「パリ・東京井戸端会議」という著書、評論家・秦早穂子との手紙から、岸恵子の好奇心の旺盛なことがうかがえる。
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