井上靖と登山
氷壁に魅せられた登山家たちの誇りと友情を描いた『氷壁』は井上靖(1907-1991)の代表作の一つである。この作品の着想は井上が昭和31年9月、穂高の涸沢に月見登山に行き、同行者の安川繁雄から、ナイロンザイル切断の遭難事件があったことを知ったからである。井上は小説にするため、その後3回穂高を見に行った。登山というより取材旅行というべきだろう。井上は登山経験はなかったものの、京都大学在学中から登山への関心は深く、山岳部の部室で山男の話をよく聞いてたらしい。また『氷壁』の前作『あした来る人』に登場する曽根二郎や大貫克平らも登山家である。井上は地図を広げて机上登山を楽しんでいるタイプなのかもしれない。穂高以外の山へは登ったことがないという。後年、西域、シルクロードを旅行されているが、新聞記者タイプの取材旅行なのであろう。旅と詩情で井上ほど成功をおさめた例はほかに知らない。
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