趣味あれこれ
札幌地裁での話。裁判員と裁判官が評議室のテーブルを囲んだ。みんな緊張して、雰囲気は硬かった。すると「私の趣味なんです」と裁判長が戦闘機のミニチュアをテーブルに置いた。「よくこんな細かい作業ができますね」裁判員から声がでた。裁判官はお堅いというイメージがあったが、急に身近に感じられたという。たしかに仕事以外一切無駄なことはしない、という人は何か冷たい感じ、非人間的な感じがするかもしれない。無駄なこと、無益なことに打ち込むほうが人間らしい、と感じることもある。趣味人の裁判長というイメージ戦略は成功したといえる。
この場合、「趣味」といっているが、「道楽」あるいは「遊び」に近いかもしれない。趣味にもいろいろある。絵画、音楽、スポーツ、釣り、ドライブ、園芸、ヨット、華道、茶道、俳句、短歌、料理、陶芸、読書、語学、切手やコインなどの収集、熱帯魚、旅行、登山などなど。つまり大人の趣味は仕事を離れた余暇活動という第二義的なものである。しかしながらこれら諸芸娯楽への関心は、人間や動物に本来遊ぼうとする傾向があり、人間には遊戯衝動Spieltriebがあるといわれる。シラーはこれを美的芸術活動の源泉と考えた。遊び本能説であるが、しかし本能や衝動を指摘しても、それらの概念が明確にされない限り、説明にはならない。そこでフリードリヒ・フォン・シラー(1759-1805)は「動物は欠乏が活動の動機である」として、余剰エネルギー説を唱えた。反対に、モーリッツ・ラーツァルス(1824-1903)は「人間は何もしないでいることをきらい、仕事をしていないときでも、休息するよりはむしろ擬似的仕事をして、仕事による疲労を回復する」とした。つまり裁判官は模型をつくることによる達成感で疲労を回復しているのであろうか。ロジェ・カイヨワ(1913-1978)は「遊び」を四つに分類している。
競争(アゴン) スポーツ、チェス
偶然(アレア) じゃんけん、くじ
模擬(ミミクリ) 人形 演劇
眩暈(イリンクス) ブランコ、登山
冒頭の裁判官の戦闘機のミニチュアは模擬(ミミクリ)にあたるのであろうか。有名人の趣味を調べると面白い。ゴルフ、乗馬、釣りを趣味とするスターは多い。加山雄三や八代亜紀の絵画など懲りようも一級品である。イ・ビョンホンの帽子あつめも知られていたが、いまではブランド物帽子ショップになっているそうだ。趣味と実益を兼ねるとは恐れ入る。
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