忘れられた思想家・岩下壮一
雑誌「一個人」2010年12月号の特集は「キリスト教入門」である。めずらしや。西洋の書物ではカトリシズムかプロテスタンテイズムか明確であることが多いが、日本におけるこの種の出版では、ほとんど入門的なもので美術書のガイドブックに近いものが多い。
「積んどく」の棚の分厚い本を見る。岩下壮一の「カトリックの信仰」。外題からして明確である。文庫本ながら966頁ある。精緻の限りをつくして述べている本書の著者は何者か。岩下壮一(1887-1940)。東京大学でケーベルに哲学を学び、ギリシア哲学、中世哲学研究のため欧州留学中、司祭となる。吉満義彦らとともに日本におけるカトリック神学研究の先駆者として、昭和14年「カトリック研究」を刊行した。岩下の研究業績は日本では無教会主義者たちによるカトリシズム批判に対抗したものである。原始キリスト教を良しとする信仰が日本にも一般に流布しているが、岩下のようにカトリック神学を理論的に研究した本書は有益なものである。(参考文献:小林珍雄「岩下神父の生涯」昭和36年、井伊義勇「復生の花園 岩下壮一神父の生涯」一路書苑 昭和16年)
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