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2010年10月19日 (火)

初めて兵役を拒否した矢部喜好

   「神は罪のない人間を殺してはならないと教えています。戦争は人を殺します。人を殺す戦争に参加することはできません」キリスト教の伝道師としての信条から入営を拒否し、会津若松の法廷で堂々と訴え、召集不応罪に問われた人がいる。日本で最初の良心的兵役拒否・矢部喜好(やべきよし 1884-1935)である。

   矢部喜好は、明治17年福島県耶麻郡木幡村舟引の小学校長矢部喜一・ギンの長男として生まれた。県立会津中学で特待生になったが、明治33年中学3年のころ、会津若松の末世のキリスト教プロテスタントの福音教会(セブンスデー・アドベンチスト)のバイブル・クラスに入り、のちに神戸衛生病院長となった女医野間キクの熱烈な伝道に感銘を受けて入信した。その後東京末世福音教会伝道学校に学んだ。文書伝道にも歩き、本郷団子坂の幸徳秋水の家もそれと知らずに訪ねた。入信をすすめる矢部青年に、秋水は「きみのように単純に信仰ができたら幸せなんだがねえ」といったそうである。

   日清戦争後も日本は、富国強兵・軍備増強を進める中、喜好は街頭で戦争反対を呼びかけた。日露戦争が始まった明治38年1月、21歳の矢部喜好は補充兵としての入隊の命を受けたが、徴兵拒否により投獄された。軽禁固2ヵ月。その年5月出獄した矢部に、軍側は「要するに殺さなければいいのだろう。それならば傷病兵の看護をする衛生兵になれ。人殺しの銃ももたずにすむし、キリスト教の愛の精神にも適うではないか」と巧妙に説得し、矢部もとうとう看護卒勤務を承諾させられた。この軍側のとった措置に関して『良心的兵役拒否の思想』を書いた阿部知二も、田村氏の伝記にある「その時代には軍にもそれだけのゆとりがあったのだろう」ということが気になっていたらしい。未亡人の春さんの話によると、日露戦争は英米のあと押しで戦われたので、矢部が英米系の教会所属のキリスト者であることを軍側も顧慮し、いわば遠慮した処置をしたのだろうという伝聞が、姪御さんを通じて阿部知二に伝えられ、同書第五刷のあとがきに加筆している。この件に関して作家の稲垣真美は「その処置がなされるに先立って、当時の福島県知事有田義資がわざわざ連隊長や管轄の仙台第二師団長と協議している。第二師団長も若松まできて矢部に会い、ノートブックに感想を書かせたのを読み、説得しがたいと思ったのか、父喜一を呼んで転向させるように求めた。が、その父も、「人を殺すことはたしかに悪いことにちがいない。いくら戦争とはいえそういう息子の主張をくつがえす論理は私ももち合わせぬ」とつっぱねた。軍側はそこで、再度県知事とも協議し、その間に、すでにアメリカでは南北戦争当時、クェーカーなどの良心拒否者に対し野戦病院勤務や食糧増産の代替勤務を与え、英国にも同様の事例があることを調査し、前述の処置をとったものらしい」(岩波書店「図書 1973年6月)とある。

   矢部喜好は入獄と看護兵の軍役を課せられ黙々とそれを果たすと、明治39年、米国に渡ってハウスボーイなどをしながら、米国同胞教会の幹部だったライト(飛行機のライト兄弟の父)の知遇を得て、シカゴ大学の神学部を卒業。9年後の大正4年帰朝すると、東京原宿で同胞教会のオルガニストをしていた春さん(当時24歳)と知り合い結婚し、滋賀県膳所に同胞教会を開設して牧師となって宣教活動を行い、農村伝道を先駆けて行った。大津から琵琶湖畔一帯にかけての農村や工場に自転車伝道し、いつもユーモアに富む快活な牧師として若者や労働者に親しまれた。昭和に入り、満州事変が始まったころは、夜ふけて教会を訪れる者たちと、春さんのつくる握飯をほおばりながら、しきりに平和を説いた。その間の弟子の一人に、のちに同志社大学総長となり、平和憲法擁護で知られた田畑忍もいたという。矢部は地方伝道の無理がたたって倒れ、昭和10年8月、京都府立医大病院で腹膜炎のため昇天した。享年51歳。(参考:田村貞一『矢部喜好伝』日曜世界社 1937、『矢部喜好の生涯』キリスト新聞社 1967)

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