荻野目慶子の「海潮音」
日本海に面する旧家に宇島理(池部良)と娘の伊代(荻野目慶子)が暮らしている。母親は娘の幼時に他界している。ある日、理が海岸で行き倒れになった女(山口果林)を助ける。女は忘れたい過去があるようで、記憶がもどらないまま理の家で暮らすことになった。理は女に妻の服を着せて、愛するようになる。ある夜、理が女を強姦するところを、伊代がみて猟銃を向けようとする。そのことがあってから、女の記憶はかすかに戻り、家を出て行く。荻野目慶子15歳、映画デビュー作といってよい。「海潮音」(1980)は「南極物語」(1983)よりも前。ATG映画なので一般には知られなかった。監督の橋浦方人もその後作品を残していない。この映画は荻野目慶子の少女期の代表作であり、南極物語よりも思春期の性が描かれている。一般的な評価は低いかもしれないが、ケペルとしては★★★★である。池辺良は「雪国」「暗夜行路」など日本的風土の文芸作品が得意なので、この作品も重厚な感じを与えている。それと日本海の荒波の暗い寂寥感。脇の泉谷しげる、烏丸せつこ等が個性を出している。脚本も橋浦のオリジナルだが、鶴女房譚を現代におきかえた発想は面白い。荻野目が猟銃を構えたところは、薬師丸ひろ子の「セーラー服と機関銃」と対比される。荻野目と薬師丸とは共通項が多い。①1964年生まれ②デビュー期もほぼ同じ③小柄で声質が高音④高倉健との共演でスターになった⑤猟銃と機関銃⑥女優としての意識が高い、ふたりが今後もどのような演技をするのか楽しみだ。
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コメント
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荻野目慶子は後に「皆月」の能登半島ロケで再び来ました。北村一輝、奥田瑛二の出演していた作品です。
「海潮音」も撮影されたのは能登半島・・・この作品には地震で崩壊する前の風景が随所に描かれており、自分の記憶の中でしか存在しない、あの頃の原風景が今も映像の中で生きています。私事で恐縮ですが本編ではフレームの奥に自宅もそのまま映っていました。見学した撮影現場では池部良氏ぐらいしか記憶には残っていませんが・・・
本編の舞台になっている家は「海潮音」に先立つこと5年くらい前には、「君よ憤怒の河を渉れ」でも撮影に使われていました。
最近、シネマヴェーラ渋谷で「海潮音」が上映されました。プリントが褪色していて残念な上映形態でしたが、記憶の中の景色はそのままでした。
東宝からVHSが発売されていたのですが、廃盤のため視聴が難しい作品です。DVDも未発売のため、鮮明な画質で鑑賞できる機会を切に願います。
投稿: じゅまんじ | 2011年7月30日 (土) 01時07分