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2010年10月21日 (木)

太宰治が好きですか?

    「小説の神様」といわれる志賀直哉が、ある座談会で太宰を「僕は嫌いだ。・・・あのポーズが好きになれない」と評した。これに対して太宰も何度かの応答の最後には、志賀を「薄化粧したスポーツマン」などと罵倒した。作家のなかには三浦哲郎のように太宰治に私淑する人もいるが、三島由紀夫や松本清張のように太宰を評価しない人も多い。しかし太宰治は生誕100周年を過ぎてもその人気は高まる一方である。

   ネットエイジアリサーチが「太宰治に関する調査」(2009年)を実施した。男女553名。太宰治の認知率は97%、「走れメロス」を読んだことがある 92%、「あなたは太宰治が好きですか」は10代女性では54%だった。これは同時代の作家と比較すれば、異常に高い率であろう。たとえば「あなたは横光利一を知っていますか」「『旅愁』を読んだことがありますか」「あなたは横光利一が好きですか」と比べるとよい。(統計は存在しないが)太宰治と横光利一と文壇における地位、原稿料には歴然とした差があったと思う。太宰文学の魅力は志賀も三島も見抜くことできなかったが、卓越した時代性、普遍性、思想性、明朗性があった。自殺、女、酒、道化、薬物中毒、自嘲、デカダンス、あらゆるネガティブな要素がありながら、作品に暗さがない。戦中・戦後という現在とは対極の時代思想にありながら、聖書によって普遍的なテーマを問い続けている。太宰治も偉いが、一般読書もやはりいいものを見抜く目は確かである。現代ならば読者や時代に迎合したり、多くの情報が氾濫しすぎて本質をとらえることができずにいるが、太宰の時代は情報もかぎられており、ただ原稿料のためだけに書くという姿勢が作品の純粋性にとってよかったのではないかという気がしている。最近NHKの番組で太宰治の短編を映像化していた。民話や語りのよさがあり、声に出して読むと新鮮であることを発見した。

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