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2010年10月10日 (日)

図書館とは何かを問いつづけて

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 思惟の家(大分県緒方町)

   図書館を退職して、自宅で家庭文庫を開設してはや一年半。いまだ地域にどのようにとけ込み、人と本とをつなぐお手伝いができるか模索が続く。浪江虔さんの体験録を読んでも軌道にのるまで相当の歳月がいることは知っている。あるとき、「みんなの図書館」のバックナンバーを読んでいると、「文庫を訪ねて」というシリーズがあるのを知った。1982年11月号は大分県緒方町の「思惟の家」大分県立図書館の松尾則男の報告だった。緒方町は大分県の南西部に位置し、2005年の町村合併により現在は豊後大野市に編入されている。文庫は畑の中に普通の簡易住宅といった感じの建物である。松尾は農夫に場所を尋ねたが、知る人はいない。「思惟文庫」という名では知れ渡っていない。通りすがりの中学生3人が、口々に「あっ、あん家じゃん」と指をさしてくれた。文庫を開設した渡部幹雄さんの奥さんが案内してくれた。蔵書は約2000冊で、「世界の名著」「世界の歴史」といったシリーズ物が多い。机とストーブがある。貸出期間は2週間、1人2冊まで。隣の和室では町の青年たちの「たまり場」になっていて夜に勉強会のようなものがある。渡部さんの夢は雑学大学をつくること。町の青年だけでなく、国境を越えて世界に開かれたものにしたいらしい。ネーミングの「思惟」に渡部さんの「考える読書」というコンセプトがわかる。家庭文庫というと絵本を中心とした子ども文庫をイメージするかもしれないが、一般対象の「世界の名著」をメインとした蔵書構成に惹かれるものがある。もともと渡部さん個人の蔵書から成り立っているのであろう。あれから30年が経過するので、いまも継続されているかはわからない。自分が開設した「女性の書斎・ひとり好き」も渡部さんの心と通じるものがある。なにも冷泉家文庫だけが文庫であるとはおもわない。嘉禄2年の古今和歌集は貴重な文化遺産であるが、近所のスーパーのチラシは一ヵ月のちはどこで探しても保存されていない。むしろ古きものは大事にするが新しきものは保存しない。スーパーのチラシを国立国会図書館に保存せよといっても無理であろう。そういうことで新聞折込のチラシは地域資料ということで公共図書館が保存の役割を果たすべきという考えが1980年代に起ったが、いつのまにやら下火になってしまった。家庭文庫は1970年代から1980年代までは各地に開設されたが、土地の確保や利用者のニーズの多様化のため維持が困難になってきた。「国民読書年」という運動が掛け声だけに終わらないためにも、1980年代ごろあった小さな文庫活動を史的に検証することが必要ではないだろうか。

    なお余談であるが、報告者の松尾則男は、あの日露戦争での広瀬武夫とのエピソードで知られた杉野孫七のことを後年調査している。「生きていた軍神杉野兵曹長の足跡を追う」(平成10年)の著作がある。

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「図書館」カテゴリの記事

コメント

ケペル先生へ

 偶然に2010年10月10日のブログを見つけました。
 取り上げて戴いて有難うございます。
 その後一年後に浪江虔さんにお出会いし、
「文庫でなく、公共図書館に関わりなさい。」
とのお言葉を戴きました。
 以後、緒方町図書館、長崎森山図書館、滋賀愛知川図書館の開設に携り、現在和歌山大学図書館の改革に関わっております。
 まずは、御報告まで。
 渡部幹雄

渡辺先生、コメントありがとうございます。文庫活動や私設図書館運動で高名な浪江先生の言葉ですが、当時日本図書館協会で活動されていたことや、前途有為な渡辺青年に励ましの言葉として「文庫でなく、公共図書館に関わりなさい」とおっしゃったと理解しています。図書館メジャリティ、文庫マイノリティという対立概念ではなく、紙の図書が消えていく今日、本のある空間、というオンリー・ワンを大切にしていきます。

ケペル先生


  早速にありがとうございました。
  新聞の折込チラシは滋賀でも取り組み
 ました。
  和歌山大学図書館でも分類して提供して
 います。 
  今、大学図書館以外の図書館関連として
 知人の文庫の開設準備の協力をしていま
 す。今夜も知人が文庫のために購入した
 農協の旧米倉庫のある大分県湯布院に向
 かいます。先月訪問しました北欧の図書館
 を夢見ております。
  なお、思惟の家は現存していますが、別
 の使途で使用しております。

  渡部幹雄
  

  

   

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