公共図書館から消えていく戦前の図書
図書の電子化がすすむ現在、公共図書館の現場でも大きな変化がみられる。資料の電子化をすすめるグループはこれまでの紙媒体が図書館書庫のスペースを大きくとることから、国立国会図書館にあればよしとして、各館での資料保存を無益と考える意見が巾をきかせている。これは国立国会図書館や府県立などの大図書館では資料の保存機能が使命の一つとして位置づけられているが、中小の公共図書館では書庫スペースの効率化を図るうえからも、資料の廃棄が急激なスピードですすめられているのである。書庫の廃棄というのは一般市民にはあまり表面にあらわれないだけに問題として顕在化するケースは少ない。「うちの図書館には保存的機能はない」と公言してはばからない館長もいる。だが図書館法第2条には「保存」という二語がはっきりと明文化されている。もちろん電子化の恩恵を受けるのは、地域の小さな図書館でも端末で過去の貴重な資料を閲覧できることにあり、電子化が有益であることは言うまでもない。問題はそのような光の部分ではなく、急激に紙の貴重な図書が地方の図書館から消滅しているという影の面である。30万冊の蔵書規模の図書館では毎年1万冊ぐらいの本は紙が劣化したわけでもなく、電子化を理由に廃棄されている。とくに戦前の図書、永年保存扱いになっていた雑誌(逐次刊行物)などがスペースをとるためターゲットになりやすい。もちろん専門性の高い司書が責任をもって管理していればそのような問題は起こらないのであるが、専門職制度の弱い図書館では市役所から配属された図書館経験の浅い職員が実務を担当するケースも多いのが現実である。市民の貴重な知的文化財であるという意識は希薄である。電子化がすすんでも図書館がこれまでの紙の図書の保存という役割を放棄すべきでないと考える。
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こんにちは、はじめまして。
とても博識でいらっしゃるのですね。
記事はとても読み易く勉強になります。
この図書館の話題を、私のツイッタ―にて
(リ)ツイートさせていただきました。
事後報告になってしまいましたが、
よろしくお願いいたします。
投稿: りらっくま吉 | 2010年9月16日 (木) 18時15分