旦那さま、家が火事です
ドイツの観念論哲学者のヘーゲルは、その難解な著作から堅物の学者の印象があるだろう。ヘーゲルの数あるエピソードの中でもよく知られるのは火事の話である。
ヘーゲルがいつものように書斎で研究していると、だしぬけに使用人が「大変です旦那さま、火事です」という。ヘーゲルはこの使用人を不思議そうな顔をして見つめて、やがて大声で頭をふって言った。「家事のことは妻に言っておくれ。お前は、ぼくがこの家のことには一切かかわり合わないといことを知らんのか」ヘーゲルは落ちついて机に向かったまま、その思索にふけっていた。
まるで笑い話である。ヘーゲルは「火事」と「家事」を聞き間違えたというのだ。ところがこのエピソードの信憑性には多くの疑問がある。ドイツ語の火事(feuer)と家事(hausliche)との間には発音に大きな違いがあって聞き間違えることはないらしい。もしかしたら日本人のつくり話かもしれない。元は、ナポレオンのイエナ侵入ではないだろうか。ナポレオン軍がイエナに侵入したとき、ヘーゲルはイエナ大学の助教授であった。市街は砲弾に見舞われ、占領されてしまったが、ヘーゲルはひたすら「精神現象学」の最後を書き上げていた。そして原稿を手にもって無事に避難した。社会現象に無関心なところから、このようなエピソードを誰か思いついた作り話かもしれない。(参考:「西洋故事物語」存在するものはすべて理性的である)
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