歴史用語、現代用語あれこれ
手許にある扶桑社の「新しい歴史教科書」には、「このような徴用や徴兵などは、植民地でも行われ、朝鮮や台湾の多くの人々にさまざまな犠牲や苦しみをしいることになった。このほかにも、多数の朝鮮人や占領下の中国人が、日本の鉱山などに連れてこられて、きびしい条件のもとで動かされた。また朝鮮や台湾では、日本人に同化させる皇民化政策が強められ、日本式の姓名を名乗られることなどが進められた」とある。(284p)ここの表現では一般の多くの教科書で採用されている「強制連行」や「創氏改名」が意図的に記載されていない。大学試験問題に「強制連行」という語が使われたことで、無効の訴えをでた団体もあるが、退けられている。歴史ブログを記述するときは、用語の使用には注意が必要であるが、さまざまな立場の人からの指摘はある程度やむをえないのかな、と思っている。
「太平洋戦争」でさえ、「大東亜戦争」とする人がいる。扶桑社の教科書でも、「日本の戦争目的は、自存自衛とアジアを欧米の支配から解放し、そして大東亜共栄圏を建設することであると宣言した」と主張している。つまり戦争の正当性を表す用語として強弁するのである。「侵略・侵入」もよく論議になる。国連で「侵略の定義に関する決議」というのがあり、それは宣戦布告の有無にかかわらず、他国の領土への侵入、占領、併合、封鎖、武装集団、傭兵の派遣その他を侵略行為とみなしている。先の日本の行為を自衛戦争とか侵略は無かったというのは明らかに欺瞞であろう。昭和12年の南京事件に関しても犠牲者数は確定できないものの、相当多数の市民や兵士が殺害されたことは事実であろう。歴史教科書が教育課程・指導要領に即しているとはいえ、編集者の立場や意識の相違によって、取り扱われる用語は異なる。当時の一般人が使用していた言葉よりも、後世の者が十分な資料をもとに検証を重ねてふさわしいという用語を創出していくものと考えている。
たとえばシルクロード(絹の道)などという言葉は当時、誰も使用した言葉ではない。中国特産の絹が洛陽・長安から中国西北部・東西トルキスタン・イラン高原北部・メソポタミア・地中海東岸を結んだ東西交通路をドイツの地理学者リヒトフォーフェンが呼んだものである。世界史用語にはこのような造語に重要な用語が多い。「オリエント」、「中世封建社会」、「ルネサンス」、「絶対主義」、「近代市民社会」、「自由主義と国民主義」、「帝国主義」、「全体主義」、「ファシズム」、「民主主義」、「国際協調」などなど。こうした基本用語とは別に現代社会には欺瞞に満ちた名称が氾濫している。「民主党」は民主勢力とは思えないし、「動物愛護センター」は不用になった犬・猫を処分するところであるし、「図書館」という所は本を保存するところではなくて、5万冊購入したら、5万冊廃棄する所である。「幸福指数」という名の不幸指数。「徴用」という名の強制連行。「エコ○○」という環境破壊。この世は欺瞞に満ちた社会である。
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