硝子のジョニー
「硝子のジョニー」は不思議な曲である。作曲者はアイ・ジョージ自身だということだが、彼はどこかでこのメロディーを聞き覚えたのかもしれない。戦後、ギター流しをしていたが、大阪のクラブの専属歌手をしていたところを、森繁久弥に認められレコード歌手となった。紅白歌合戦には1960年から1971年まで連続出場している。まさに1960年代はまちがいなくアイ・ジョージは日本の歌謡界の頂点にいた。その後、テレビなどに出演することもなく、彼の代表曲「硝子のジョニー」や「赤いグラス」さえ聞かれることは少ない。そんな彼の勇姿を映画「硝子のジョニー、野獣のように見えて」(蔵原惟繕監督)で拝見することができる。彼の声質の聞きよさ、ムード、いままで聞いた日本人歌手の中で最高である。彼は軍歌も得意のレパートリーである。流しの頃覚えたのだろうか。とくに「戦友」はいい。映画でもワン・フレーズ聞くことができる。国際感覚を生まれながらにもったアイ・ジョージだが、やはり太平洋戦争の孤独が彼の人生に影響しているといえる。
ところで標題の「硝子のジョニー」が何者であるか分からない。歌詞は大阪の作家・石浜恒夫(1923-2004)のものでアイ・ジョージの実体験が現われているとは思えない。「黒い面影、夜霧に濡れて、ギターも泣いてる、ジョニーよどこへ、いつかは消えてゆく、恋の夢よ」しかし曲と歌詞が一体をなし心にしみる。劇中で芦川扮するみふねは「硝子って壊れ易いものよね。だから大切にしなくちゃいけないわ。わたし、ジョニーよどこに、という所が好き」という。大阪弁のアイ・ジョージが何人であるのか知らないが、背丈は低いが頑丈な肉体を持っている。この映画には長身の宍戸錠とアイ・ジョージが登場するが、どちらも野獣のような精悍さだ。ヒロインみふね(芦川いづみ)は北海道・稚内の貧しい昆布採りの娘で人買い(劇中では玉ころがし)の秋本(アイ・ジョージ)に身売りされたが、途中で逃げ出し、函館の見知らぬ競輪の予想屋ジョー(宍戸錠)に助けられる。だがジョーも5万円の金欲しさからみふねを売り飛ばす。ジョーは野獣のような男だが、白痴のみふねは、いつかジョニーが助けてけれると思っているらしく、慕いつづける。秋本が函館でみふねを見つけ、列車で大阪へ連れ出す途中、秋本は暴漢に刺される。懸命に看病するみふね。病中に「硝子のジョニー」を弾く。ヤクザな二人は小悪人だがいつしか天使の心をもった芦川いづみの大切さに気がつき、探し出すがそのときはすでに遅く、いづみは海で死んでいた。まるでフェデリコ・フェリーニの「道」のようなテーマである。つまり「ジェルソミーナのテーマ」が「硝子のジョニー」なのだ。ソチ・オリンピックでは高橋大輔選手は「硝子のジョニー」でアジアの戦争の悲しみを表現してもらいたい。
日活アクション映画全盛期にあってこの映画「硝子のジョニー」は高い評価では無かったが、半世紀経て名作に見えるから不思議である。黛敏郎が音楽を担当している日活作品にはみるべきものがある。
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なにかの拍子でここにたどり着きました。こんな映画があったんですね。映画は未見ですが身売りが行われるような、あの時代の貧しさには心が引き締まる思いです。棚の奥からアイ ジョージのCDを探しだして久しぶりに聞き入りました。いい歌です。
投稿: 水餃子 | 2012年4月26日 (木) 23時51分