人類愛の金メダル
昭和39年、第18回オリンピック東京大会が開かれたときのことです。ヨットレースは相模湾の江ノ島沖でおこなわれました。この日は朝から、北西の強い風が吹いていましたが、レースは予定通りに開始されました。スウェーデンのラース・キエル、スリグ・キエルの兄弟選手が操縦するハヤマ艇は快調に先頭グループにいました。ハヤマ号はオーストラリア艇を追い込んでいました。そのとき、突風により、オーストラリア艇が大きくローリングして、ウィンター選手が海に投げ出されました。スリグは「たいへんだ、兄さん、ダイアブロ号が遭難だ」スリグ選手とラース選手はこのとき、さまざまな考えがうずまきました。もし、助けようとすれば、時間をくってハヤマ号のこれまでの快走はほとんど無意味になってしまう。これまで金メダルをとるためだけにどれだけに激しい練習をしてきたことも、まったくむだになってしまう。ウィンター選手はあのままにしておいても、だれかに助けられるだろう。それならこのまま、ハヤマ号を走らせて…。そんな考えも浮かんだ。海の王者としての勝利をめざすか、それとも、命の尊さにすべてをあきらめるか。ふたりの考えは、同時に決まった。ウィンター選手を援けるのだ。それが、ヨットマン、海に生きる男のとうぜんするべきことです。すぐにハヤマ号はたくみに風を利用して、ウインター選手を救助しました。けれどもレースを中断して、救助にあたったので、とりかえしのつかない時間となったのです。最後まで力走してゴールインしたときは、第12位の成績でした。勝ち負けよりも、命のとおとさを選んで、競争相手の選手を助けたキエル兄弟。「母国の人たちの期待にそえず、まったくもうしわけない。けれども、波にもまれているウインター選手を見たとき、レースのことは忘れました。助けだすのは、海の男としてはあたりまえのことです。ぼくたちは、海のほんとうのルールを守っただけです」12位だったキエル兄弟のこの行為に対する母国スウェーデンの人たちはもちろん、世界中の人々が金メダル以上の大きな拍手を送りました。オリンピックのスポーツマン精神は「より速く、より高く、より強く」という目標とともに「より美しく」というのがあります。この兄弟の立派な行いは、「より美しく」というオリンピックの精神をみごとに示してくれたものです。
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