作家のDNA
白石一文が直木賞を受賞したが、父の白石一郎とともに親子での直木賞は初めてだそうだ。世間に父と子が同じ職業となることはよくある。たとえば歌舞伎などの伝統芸能の場合は当たり前のような気がする。野村克也や長嶋茂雄も息子は一応プロ野球選手として育った。親子鷹という言葉が使われる。医者や俳優なども二世が同じ道を選ぶケースはある。政治家の場合は何かと批判は多いが現実として多くみられる。ところが唯一、作家という職業だけは父と子が小説家というケースは稀である。作家の子は父の背中を見て育つので、小説家がどんなにたいへんなものであるか知っているからだろう。世界文学をみても、「三銃士」のデュマ・ペールと「椿姫」のデュマ・フィスが文学史に名をとどめたくらいで思いあたらない。文豪トルストイにはセルギイ、イリヤ、レフと3人の息子がいたが、何を成しえたか知らない。日本で親子作家というのは、幸田露伴・文、森鴎外・茉莉・小堀杏奴、広津柳浪・和郎、吉行エイスケ・淳之介、福永武彦・池澤夏樹、太宰治・津島佑子・太田治子、阿川弘之・佐和子、青野季吉・聰、吉本隆明・ばなな、井上光晴・荒野、田中英光・光二、大西巨人・赤人、佐藤紅緑・愛子、江國滋・香織。他にもいるだろうが全体としてはそれぼど多くない。つまり作家のDNAはあまり文芸的遺伝子は含まれておらず、文才は生得的なものではないのである。ちなみに親子ではないが、幸田露伴の甥の高木卓は昭和15年の芥川賞を辞退している。
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