「ある日わたしは」と「冬のソナタ」
地方から上京した女子大生の恋愛を描く石坂洋次郎の青春ドラマ。東宝の作品では「隠し砦の三悪人」でデビューした上原美佐、テレビでは松原智恵子がヒロイン城山ゆり子を演じている。映画(岡本喜八監督)は、ゆり子は幼なじみの矢吹健次郎(山田慎二)にものたらなさを感じ、医学生の金子大助(宝田明)にひかれて二人は結ばれるという結末である。ドラマでは山崎次郎(和田浩治)の孤独な魅力にひかれながも、健次郎(川口恒)も再度復活する。結局ゆり子は医学生・金子大介(津川雅彦)という新たな恋人と結ばれるが、ドラマの主役は松原智恵子と和田浩治であった。恋人たちの障害となるのは、ゆり子の母(三宅邦子)がむかし大助の父親(上原謙)と恋人同士だったこと。まるで「冬のソナタ」の原形のようなストーリーだ。ドラマには歯科医山崎良夫(松山省三)とジュディ・オングの恋、健太郎(川口恒)と秀子(太田雅子、のちの梶芽衣子)の結婚、山崎信一(早川保)のプロポーズ、次男の山崎次郎(和田浩治)の三兄弟が新たに設定されて物語をふくらませている。つまり「陽のあたる坂道」の石原裕次郎の役が和田浩治となるわけで、ドラマ「ある日わたしは」は高視聴率で大評判となった。資料によればドラマは松木ひろしの脚本で、小説「ある日わたしは」と「青春の海」を併せたストーリーだそうだ。平板な映画版にくらべ、筋の展開が変化に富みヒロイン松原智恵子の最高の作品となったが、昭和43年から44年、連続ドラマのほうが映画より面白いことを証明した作品となった。主題歌はジャッキー吉川とブルーコメッツが歌ったがCD化されていない。「愛のしぐさはうれしく、愛のしぐさは悲しい。××××大人になる。ああ、これを恋といえるのなら。ああ、燃えてる。いつのまにか。女ならば知りたい。女ならば××××。」(ウロ覚えの歌詞)「冬のソナタ」と対比すると、チェ・ジウ(上原美佐、松原智恵子)、ペ・ヨンジュン(宝田明、津川雅彦)、パク・ヨンハ(山田慎二、川口恒)、パク・ソルミ(水野久美、梶芽衣子)、ユジンの父(上原謙、佐野周二)、カン・ミヒ(三宅邦子、高峰三枝子)、ユジンの妹(星由里子、ジュディ・オング)。石坂文学のよく見られる親子二代にわたる運命的な純愛をベースに、サスペンス効果と風景の映像美とサウンド効果を巧みに取り入れたのが「冬のソナタ」である。映画版、ドラマ版のキャスティングを見ると、上原、佐野、三宅、高峰と戦前松竹メロドラマスターを配置しているところなど心憎い演出であった。
異母兄妹ではないかという疑惑は、冬ソナではミヒ(女性)がミニョンとユジンが同級生であることから、ヒョヌとチヌとの関係が同時期であるはずがないという疑問をチヌは抱いた。結局、ミニョンとサンヒョクが兄弟だった。「ある日わたしは」では上原謙が三宅邦子と沢村貞子と同時期に交際していたとして、大助とゆり子とが兄妹である疑惑が生ずるのであるが、この映画ではあまり追求するシーンはなかった。山田慎二が二人の結婚に待ったをかければ物語はさらなる展開をみせたであろうに。ドラマでは出生の秘密を知った山崎次郎はレーサーとして勝利するが、ゆり子と別れて谷川岳で自殺する。
ところで知的で清潔な印象の上原美佐がなぜ数年間で引退したのかは真相はわからない。顔立ちはともかく声質は悪く、情感がなく演技力は感じられなかった。当時の東宝は、日活・東映・松竹・大映に比べ女優陣がひじょうに豊富だった。高峰秀子、淡島千景、新珠三千代、八千草薫、有馬稲子、久我美子、香川京子、淡路恵子、司葉子、岸恵子、草笛光子、そして第二世代として団令子、白川由美、水野久美、星由里子、藤山陽子、浜美枝らが台頭してきた。上原美佐に主役が回ってくる可能性はあまりなかっただろう。
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