ラスト・コンサート
男はかつては名声を得たピアニストだったが、いまでは愛も希望も失っていた。女は不治の病に冒されながら、残された人生を懸命に生きていた。男はうつむいてモン・サン・ミッシェルの海辺を歩いていた。軽やかな少女のハミングが聞えた。白いマフラーを海風になびかせて、栗色の髪にのせたベレー帽を飛ばされぬよう右手で頭を押さえている。「私はステラ。あなたは?」男は黙っていた。「ちょっと、あなたに聞いているのよ!お名前は?」「名前なんてない。誰もいないと思ってくれ」「あら、そう。つまり、透明人間ってわけね」「いい加減にしてくれ!俺に話しかけるな」ステラのすすりなく声がした。「リチャードだ」
フランス北西部ノルマンディーにある祈りと癒しの聖地モン・サン・ミッシェルで偶然に出会ったリチャードとステラ。2人は絶望をかかえていたが、リチャードはぬかるみを見下ろしているのに対し、ステラは星を見上げながら希望を忘れなかった。
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