浪華新町の桜木太夫
「上戸かわいや丸裸」という言葉がある。タレントの上戸彩が可愛くて丸裸にしたいという意味ではない。上戸(じょうご)、つまり酒好きは衣類まで酒代にしてしまうので、いつも丸裸という意味である。幕末京都では遊郭が賑った。上戸彩が演じた浅田次郎の小説「輪違屋糸里」も幕末の芸妓。糸里は歴史上の人物だが、輪違屋にいたという記録は残っていない。輪違屋で有名な芸妓は桜木太夫である。幕末の桜木太夫は桂小五郎、伊藤博文の愛妾であったが、伊藤の死後は、尼となり京都西賀茂に隠棲した。
桜木太夫という源氏名は由緒ある名らしく、同名の芸妓が大坂でも実在していたそうだ。享和3年(1803)の夏。浪華新町の遊郭で「桜木太夫」と呼ばれ、一時は全盛を誇った売れっ子であったが、不幸が続いて落ちぶれ、大川にかかった難波橋の南詰めで、あま酒を売ってなりわいとするほどになってしまった。しかし、零落したといっても、かっては廓中の人気をひとり占めした美妓。残り香もなまめかしい肢体が、人目をひきつけぬはずがない。そのなりゆきは、評判となり、だれいうとなく「太夫あま酒」「美人あま酒」と呼ぶようになり、若衆たちはひと目、色の白い「あま酒菩薩」をおがもうと、飲みたくもないあま酒をすすりに、われもわれもと押しかけるありさま。ついには、難波橋畔の美人あま酒を売る図として錦絵にまでなった。ある俳人の句に、「花はむかし名は桜木の一夜ざけ」とある。
(参考:永山久夫「酒雑学百科」河出文庫)
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