横光利一の欧州俳句紀行
横光利一(1898-1947)は芭蕉を深く敬慕し、約400句近い俳句を残している。昭和11年には新聞社の特派員として、ベルリンオリンピックの観戦のためヨーロッパ旅行を初体験する。アジア、アフリカの港に立ち寄りながら地中海に入って、1ヵ月余りかけてマルセイユに着いた。次のような渡欧の船上での句が残されている。
王の夢むかしの夢のスフィンクス
紅き海名のみにすぎぬ夏の空
石に残るアラビア文字の懐かしき
コンコルド女神老けにし春の雨
シャンゼリゼ驢馬鈴沈む花曇
俳句のことはよく判らないが新感覚派の旗手にしては、いささか月並みな句のように思える。利一の渡欧生活は楽しいものだったのだろうか。本業の小説のほうは、この渡欧体験から長編小説「旅愁」が10年の歳月を費やして書き継がれるが、未完のまま没した。利一は異国の地で、西欧文化に対して日本の美的倫理を再認識したそうだ。パリでの日記には「ここの事は書く気が起こらぬ。早く帰ろうと思う」「巴里にいると、日本の田舎の温泉に行きたくて仕方がなくなる。」とある。
「日本文学」カテゴリの記事
- 畑正憲と大江健三郎(2023.04.07)
- 青々忌(2024.01.09)
- 地味にスゴイ、室生犀星(2022.12.29)
- 旅途(2023.02.02)
- 太宰治の名言(2022.09.05)
コメント