諸葛孔明「後出師表」偽作説
いまや我が国では何度目かの「三国志」ブーム到来である。とくに今回の特徴は若い女性たちの間でブームになっている。やはり人気のトップは諸葛孔明で、理知的で美男子の孔明像が映画のイメージで作られた観がある。現実の歴史の上では北伐作戦に失敗したのに、武侯祠がつくられるほど人気があるのか。諸葛孔明人気の千古不滅の理由は名文「出師表」によるところが大である。ところで孔明の作とされる「出師表」には「前出師表」と「後出師表」がある。だが「後出師表」は、正史『三国志』、『諸葛武侯集』、『文選』に記載がない。また「前出師表」に比べると風格、内容、語調を取って見ても見劣りがする。「後出師表」を蜀の人々が読むと、おそらく戦意喪失するか、反戦気分が高まるであろう、等の理由から、古来から「後出師表は他人の偽作」とする説がある。とくに何故蜀の人である陳寿が「後出師表」を採録しなかったのか疑問が残る。陳寿は正史の編纂に当たって、蜀・魏・呉三国の大量の資料を参考にしたが、その選別作業は大変厳格であった。「後出師表」に関して、最初に記載したのは裴松之が『三国志』につけた注であり、その付記には「後出師表」の出典を呉の張儼『黙記』に見えると記している。陳寿が「後出師表」を黙殺したのか、散逸して入手できなかったのかは明らかではないが、ほぼ同時代に「後出師表」の存在が呉によって確認されていたことになる。それは孔明の兄諸葛謹が呉の要職に仕えていたことによるものかもしれない。いずれにしても「後出師表」は三国時代の早い時期に流布していたものであることは明らかである。(参考:植村清二『諸葛孔明』、貫井正「諸葛孔明、後出師表の真偽」、しにか133号)
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