西村小楽天と岡晴夫
西村小楽天、本名・田川実(1902-1983)は東京の生まれで、子供の頃に活動弁士の西村楽天に入門。大正6年、浅草帝国館で少年弁士として初舞台を踏み、のちに松竹専属の弁士となった。映画がトーキーになってからは漫談家を経て歌謡曲の司会をした。弟子に宮尾たかしがいる。
小楽天の独特の口調は、もともと活弁からくるもので、例えば東海林太郎の「旅笠道中」はこんな調子である。
「雲は天井の股旅者か、同じ流れの旅人暮らし、一天地六の賽の目かけて、昨日は東、今日は西、風の吹きよで心も変わる、女房泣かすは本意じゃないが、これがやくざの意地の果て、ホロリ涙を合羽に隠しゃ、風が冷たい旅笠道中。♪夜が冷たい 心が寒い 渡り鳥かよ 俺等の旅は 風のまにまに 吹きさらし」
西村小楽天は昭和23年1月から、岡晴夫(1916-1970)の専属司会者となり、二人は名コンビとなった。
「岡の小鳩か、小鳩の岡。一世を風靡した小鳩シリーズ。感激は常に新しき思い出の名曲・啼くな小鳩よ。♪啼くな小鳩よ 心の妻よ なまじ啼かれりゃ 未練がからむ たとえ別りょと 互いの胸に 抱いていようよ 面影を」
「冬の永い国境にもようやく春が訪れようとしている。しかし、春は名のみの荒野には、まだ粉雪舞う日もあるのだった。ペチカの恋しい明け暮れではあっても、渡る風は流石に柔らかく、待望の春はもうすぐそこに。春よ春、国境の春遠からじ。♪遠い故郷は はや春なれど ここはソ満のくにざかい 春というても名のみの春よ きょうも吹雪に日が暮れて 流れはてなきアムールよ」
「晴れ渡る空にこだましてドラが鳴り、七いろのテープを切って船は行く。夢は飛ぶ椰子の葉陰の緑の島、常夏の国へ、おお、憧れのハワイ航路。♪晴れた空 そよぐ風 港出舟の ドラの音愉し 別れテープを笑顔で切れば のぞみはてない 遥かな潮路 ああ あこがれのハワイ航路」
「花の都に咲く花は うつつ夢見る恋の花 柳芽をふく銀座の街に 小首かしげて召しませ花を、ああ東京の花売娘♪青い芽をふく 柳の辻に 花を召しませ 召しませ花を どこか淋しい 愁いを含む 瞳いじらし あのえくぼ ああ東京の花売り娘」
「喜びも悲しみもともに分け合った幼馴染、三年ぶりに逢ったところは街の場末の縄のれん、思わず互いに肩抱き合った逢いたかったぜ♪逢いたかったぜ三年ぶりに 逢えてうれしや 飲もうじゃないか 昔馴染みの 昔馴染みの お前と俺さ 男同士で酒汲み交す 街の場末の ああ 縄のれん」
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