裁判員制度と陪審制
いよいよ2009年5月21日から裁判員制度が始まる。制度そのものをあまり理解していないから、この記事には誤りがあるかもしれないことをあらかじめお断りしておく。裁判員制度とは「現代用語の基礎知識2009」に「法律の専門家でない一般国民が刑事裁判に参加し、裁判官とともに審理を進め、評決によって判決の内容を決める制度」とあり、つまりいわゆる陪審制と解釈する。広辞苑には「陪審(ばいしん)一般市民から選定された陪審員が審判に参与して、事実の有無などにつき評決する裁判制度。わが国では、1923年の陪審法によって刑事事件に関する審理陪審が認められたが、1943年停止」とある。日本にも陪審制度があったとは知らなかった。ただし、戦前の陪審法では、陪審員の答申には拘束力がなく、法律の適用や量刑は裁判官が行ったので、実際は「参審」というもので、つまり「狭義の陪審制」である。有罪の場合、被告は多額の陪審費用を請求されたり、陪審制度を利用すると控訴が許されないなどから、次第に利用件数が減り、昭和3年から昭和18年までの15年間で、陪審裁判は484件、無罪率は16.7%と制度導入実績は低調で失敗だったといえる。
今回の裁判員制度導入の経緯は詳しくは知らない。裁判の短期化、裁判コストの削減などにその理由をあげられるが、その導入には問題点が多いように感ずる。社会の関心が集るような重大事件に限って導入するような背景には、「凶悪犯罪のショー化」という一面が見られる。また裁判官よりも選任された裁判員のほうが、「社会常識」がある、というのもウソ臭い話である。おそらく一般国民はメディアがつくった倫理や情緒に左右されやす傾向にあるだろう。「凶悪犯に死刑判決を」と煽られて、スピード判決で、数年後に真犯人が現われて、実は冤罪だったという事例が起こりうる可能性が高い。もちろん選任された裁判員は個々の良心に従って、真剣に審理するだろうが、素人に人を裁くことがほんとうにできるのだろうか。
陪審制の起源は、ゲルマンのフランク時代に、事件が起こったとき村人たちに宣誓をさせて犯人を指名させる慣行ができた。これがノルマン・コンクェストによって、イギリスに伝えられたといわれる。イギリスでは12世紀に、これが起訴陪審の原型を形づくることになった。起訴陪審とは、被告人を審判にまわすかどうかを陪審できめる制度である。はじめは、この起訴陪審で審判にまわされた被告人は、いわゆる神裁(くがたち)であかしを立てないかぎり有罪とされたが、13世紀に神裁が禁止されてのち、その同じ起訴陪審の人たちによって裁かれることになった。しかし、起訴した者が自分で裁判するのでは不公平のおそれがある。そこで、やがて裁判するときには、新しいメンバーを加えるようになり、さらにのちには、新しいメンバーだけで裁判するようになった。このようにして起訴陪審のほかに審判陪審ができた。前者は一般に大陪審といわれ、後者は小陪審といわれる。大陪審はうまく機能しないことが多いが、小陪審のほうは人権を保障するための制度として、世界で多く採用されている。日本の裁判員制度の性格は、被告の人権を保障するという点よりも、一般国民という法の素人によるリンチ刑という色彩が濃い。古代日本には、「盟神探湯(くがたち)」といって、真偽正邪を裁くのに神に誓って手で熱湯を探らせたことが知られているが、ハムラビ法典の「目には目を、歯には歯を」や「くがたち」など古代の律法は苦痛を与えるというある種の拷問の性格をもっていたと考えられる。裁判員制度導入による厳罰主義で死刑が増えることによる見せしめ的効果を図り、凶悪犯罪を抑止することが本当の狙いなのだろうか。
もちろん裁判員法では、「私刑(リンチ)」や「素人の暴走」にならないための配慮が加えられている。裁判員と裁判官とがそれぞれ最低1人ずつは有罪に賛成していなければ被告人を有罪にできない。例えば、裁判官3人が無罪、裁判員6人が有罪として場合には、多数意見は有罪だが、裁判官が1人も賛成していないので無罪となる。なお、裁判官と裁判員とで一票の価値に差はない。このような法文があること事体、「裁判員の暴走」という懸念があるという証左であろう。
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私が陪審員に選ばれたら、結論はすべて決まっています!犯罪が軽い、重いに関係なく犯罪者はすべて死刑です!!なんと言おうと絶対、死刑に手を上げます!(何しろ人類は異常に繁殖し過ぎで環境破壊をはじめいろんな問題が発生しています)、それ故なるべく早く常任陪審委員に選ばれることを待ち望んでいます!早く早くと郵便受けが気になってしょうがないんです!!
投稿: 優美子 | 2008年12月31日 (水) 10時27分
強盗致傷罪の法定刑は無期または6年以上の懲役、強盗致死罪は死刑または無期懲役です。一般に死者1人のときは無期懲役、死者2人のときは死刑という傾向にあるそうです。罪の程度を量ることを量刑といいますが、なんでも死刑というの暴論ですね。例えば、職場の同僚の机の上にあったティッシユ・ペーパーで鼻をかんだとします。同僚はその現場を見て、窃盗罪で訴えたとします。罪を認めて裁判となりました。死刑とするにはあまりに苛酷ですね。大審院の判例で「一厘裁判」というのがあって軽微な罪はとわれないのです。優美子さんには、映画「十二人の怒れる男」を見ることをオススメします。法と正義、良心ということを考えさせてくれます。
投稿: ケペル | 2008年12月31日 (水) 13時21分