スカーレット・オハラの対象喪失
喉の渇きが水によって満たされるように、愛情は愛する者の存在によって満たされる。対象喪失とは、欲求を満たす対象が突然目の前から消えてしまうことによって起こるストレスである。家族の死や離散は最も強いストレスをもたらす対象喪失であるが、そのほかにも、資産の喪失や定年退職などによる職場の喪失などもストレスをもたらす。1969年、イギリスのパークスが、54歳以上で配偶者を失った夫または妻が、配偶者の死去から6ヵ月以内に死亡する死亡率は、同じ年代の対照群の人びとに比べて40%も高い、その原因を調べたところ、原因の4分の3は心臓病、とくに心筋梗塞であった。
愛する人を失い、悲嘆のうちに病いの床について死んでゆく。このことは古くから周知の事実ではあったが、医学的認識が実証されたのは、1970年代になってからである。ストレスとなる出来事は、別表のように、配偶者の死、離婚、配偶者との別れ、拘禁、家族の死、怪我や病気、結婚、退職、昇進、引退、失恋、進学、転校など多数の環境の変化が人に精神的ストレスをもたらす。
ここでは「風と共に去りぬ」のスカーレット・オハラの例で考えてみる。スカーレットは、恋人アシュレーが、メラニーと結婚してしまうことで、外的対象喪失をおこす。そしてこの悲しみに打ち勝つためにスカーレットは、軽率な結婚を繰り返すが、アシュレーへの思慕の情はつのるばかりである。やがてアシュレーの妻メラニーの死によって、アシュレーを自分のものにできる期待に一瞬胸をおどらすが、亡き妻を慕って悲しむアシュレーを見て、スカーレットは心から絶望する。つまりスカーレットの心に内的な対象喪失(ある種の幻滅感)がおこったのである。(参考:小此木啓吾「対象喪失」)
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