松本清張の座右の書
木村 毅
松本清張(1909-1992)は「葉脈探求の人」(『グルノーブルの吹奏』昭和33年)というエッセイの中で、昭和2、3年ころ(清張18歳ころ)に木村毅の『小説研究16講』を買い、深い感銘を受けたと述べている。軍隊に行った時も、家庭に保管するようにいい残し、復員して作家になり、さらに死に至るまで、手垢にまみれた同書を書架の片隅にずっと座右の書として置いていた。
木村毅(1894-1979)は岡山県勝田郡勝間田村(現勝央町)に生れる。隆文館、春秋社の編集者をしながら評論、翻訳、実録、伝記ほか多数の著書を残した人である。松本清張の創作の原点は木村毅の『小説研究16講』にあったことは明らかである。日本の伝統的な私小説を拒否し、隠された真実を追究するノンフィクションへの関心は後年に「社会派推理小説」というジャンルへとなって結実した。
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