嵯峨野・化野念仏寺
京都嵯峨野の特徴は、細くつづく小道と、それを囲む竹薮である。ここはまた数多くの哀話を伝える物語の里であり、ひっそりとした小道は、このあたりに隠れ住んだ人たちの薄幸の人生を象徴しているかのようでもある。滝口入道と横笛の悲恋を秘める滝口寺、高倉帝と小督の局の哀話を残す小督塚、なかでも平清盛の寵を失った侍女の祇王が、母や妹の祇女とともに余生を送ったと伝えられる祇王寺は、その閑寂なたたずまいの中に、いいようもない哀愁を漂わせている。
しかし人の世の無常を感じさせるものとしては、化野念仏寺の右に出るものはない。化野とは小倉山東麓一帯の地名で、遺体を風葬にするため捨てた場所という。境内にある累々たる石塔の群れは、いかにも寂しく、いかにも悲しい。そのいずれもが、すべて無縁仏であり、いつの世にかここに捨てられた人々の悲しい墓石である。昨日と今夜、化野念仏寺では千灯供養が営まれる。
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