新東宝メロドラマ
「細雪」(阿部豊監督)高峰秀子、田崎潤
「新東宝の亡霊が夜な夜な都会の安眠をさまたげている」昭和36年につぶれた新東宝作品が深夜テレビで放送されて、時ならぬ新東宝ブームをまきおこしたときの週刊誌の記事の見出しだ。新東宝といえば、まさにエロとグロが氾濫する見世物映画であった。だが、このような大蔵貢(1899-1978)にみられる路線は昭和31年からのもので、初代社長の佐生正三郎の時代には溝口健二の「西鶴一代女」のような傑作も製作され、どちらかというと文芸メロドラマ路線の感があった。
昭和21年秋、東宝映画の労働者は製作体制の民主化を要求して、大規模なストライキにはいった。当時、東宝は大河内伝次郎、長谷川一夫、原節子、高峰秀子、藤田進、黒川弥太郎、山根寿子、花井蘭子、入江たか子、山田五十鈴という「十人の旗の会」というスターを専属にしていた。彼らはその年の11月、東宝を離脱した。こうして誕生したのが新東宝であり、昭和22年3月、劇映画の製作を開始した。第1回作品は「東宝千一夜」(山根寿子)、つづいて「今日は踊って」(長谷川一夫)、「大江戸の鬼」(高峰秀子)であった。やがて「花ひらく」(高峰秀子)、「天の夕顔」(高峰三枝子)、「三百六十五夜」(高峰秀子)と新東宝メロドラマ路線が確立した。「夢よもう一度」「結婚三銃士」(上原謙、高杉早苗、山根寿子)、「望みなきに非ず」(小杉勇、木暮実千代)、「異国の丘」(花井蘭子)、「湯の町エレジー」、「人間模様」(山口淑子)、「グッドバイ」(高峰秀子)、「深夜の告白」(池部良)である。翌25年になると、「処女室」(高峰秀子)、「暁の脱走」(山口淑子)、「細雪」(轟夕起子、高峰秀子)、「山のかなたに」(池部良、角梨枝子)、「雪夫人絵図」(木暮実千代、上原謙)などである。わけても「細雪」は、谷崎潤一郎のベストセラーを原作に、蒔岡家の四姉妹を鶴子(花井蘭子)、幸子(轟夕起子)、雪子(山根寿子)、妙子(高峰秀子)と当時最高の人気女優をズラリと並べ、一流の技術スタッフ、豪華なセット、衣裳を駆使した文芸大作だった。佐生正三郎社長は「配給の神様」と言われたが、経営状態は悪化し、昭和28年2月には退陣した。大蔵貢新社長が就任するのは昭和30年12月29日で、昭和31年から「大蔵路線」といわれる見世物的な娯楽映画の製作に切り替わる。しかし、質は悪かったが、そこには娯楽映画特有の魅力や活力があった。
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