壺中に天あり
後漢の時代、河南省汝南県の町役人に費長房という人物がいた。市場に薬売りの老人がいて、彼の売っている薬を飲むと、病気はたちまちのうちに治った。費長房は高殿の上から老人の店を見ていると、不思議なことに、毎日市が終わると、店に置いてあった壺の中へ跳び込んでしまう。老人がただ者でないことを感じとっていた長房は、目をつぶって老人の後を追って壺の中へ跳び込んでいった。
驚いたことに、壺の中には壮麗な仙宮の世界が広がっていた。美しい楼閣、二重三重の門、2階造りの長い廊下。老人は数十人の侍者を従え、長房を笑って迎えた。酒や肴のある華やかな宴に驚き、壺の中に別世界の楽しみを味わった。
老人の姓名は、ついに判然としなかったが、のちに壺公と尊称され、俗に『壺公符』と呼ばれる全20余巻の霊符を残したとされている。壺の中の仙界は「壺中天」の名のもとに、伝説となった。費長房は人界を去り、仙人となる試験を受けるが、最後に失敗し、仙道は得なかったが、長寿と使鬼の術を授かる。彼はその符の力によってよく諸病をよく治すことができたが、符をなくして鬼のために殺された。
「壺中に天あり」とは、壺の中からも満天の世界に通じるの意で、一つの小天地、別世界をいう。壺中有天は安岡正篤の説く「六中観」、つまり死中、苦中、忙中、壺中、意中、腹中の一つでもある。現実生活を強く生き抜くためには、自分の楽しみを持つ心が大切である、という意味にも通じる。
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