エステル・テイラー
セダ・バラは「愚者ありき」(1914)という映画で、男を片っ端から破滅に陥れる悪女を演じ、「ヴァンプ」と呼ばれて人気を集めた。以後も、クレオパトラ、カルメン、サロメといった毒婦、悪女を次々と演じた。そもそも「ヴァンプ」とは何か。「ヴァンパイア」の略である。広辞苑には「妖婦。毒婦。淫婦。また、その役を演ずる女優。バンプ」とある。ほかの辞書には「故意に男性を魅惑し食い物にする女」とある。イギリスの詩人ラドヤード・キップリングの詩に「ヴァンパイア」があるのが起源という。
1920年代のハリウッド映画はまさにヴァンプ花盛りであった。今ではその名をほとんど知られないが、エステル・テイラー(1899-1958)もヴァンプ女優の典型であった。古老の話(双葉十三郎と淀川長治の対談)を聞いてみよう。
双葉 セダ・バラは長さんが言ったみたいに演技もメークもいわば歌舞伎的だったけど、その後に来たエステル・テーラーは同じヴァンプでも少し現実味が出てきて、ほんとになまめかしい、いい女だったね。
淀川 フォックスはだいたい田舎くさいのに、エステル・テーラーが出てきた時はびっくりしたね。何とも知れんきれいで、「ある愚者ありき」なんかセダ・バラがやった後にエステル・テーラーで作ったけど、よかったよ。あんな女優には誰でも征服されちゃうね。
双葉 長さんはエステル・テーラー気違いだからな。ヘビー級のチャンピオンのジャック・デンプシーと結婚して、また有名になったね。
淀川 僕は清純派の双葉さんと違って、ヴァンパイアーが好きだから(笑)。
* * * * *
エステル・テイラーは17歳で離婚後に演技を学び、ブロードウェイのコーラス・ガールになる。美女テイラーと結婚した拳闘家ジャック・テンプシーは闘争本能を忘れ3年間も試合をせず、1926年9月にジェーン・タニーに敗れ王座を去った。映画だけでなく実生活でも男を破滅する女だったのだろうか。代表作「紐育の丑満時」(1920)「或る愚者有りき」(1922)「十誡」(1923)「ドン・ファン」(1926)「リリオム」(1930)「街の風景」(1931)「シマロン」(1931)「南部の人」(1945)
(参考文献:「スタアがスタアだった時代」別冊太陽・女優Ⅱ)
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