マネとベルト・モリゾ
黒い帽子のベルト・モリゾ
エドゥアール・マネ(1832-1883)の「バルコン」(1868年)に扇子をもって座っている美しい女性はベルト・モリゾ(1841-1895)である。モリゾはこれまでマネのモデルとして知られていたかも知れないが、近年は個展も開かれ、女流画家としても高く評価されるようになっている。第1回から第8回まで開催された印象派展に実に7回も出品している。モリゾの作品にはシルバー・ホワイトがなされたと思われる層の上に明るい透明に近い黄土色の薄い層を重ねて下地とした作品が多くみられ、身近な人々を女性らしいこまやかな愛情をこめて描いている点に彼女の特徴がみうけられる。
マネは「草上の昼食」「オランピア」などで世の非難を浴びていた1858年のある日、ルーブル美術館で、リューベンスの模写をしている若くて美しい女性を、友人のファンタン・ラトゥールから紹介された。マネは彼女の漆黒の瞳とエキゾチックな容貌に魅せられた。すぐさま、モデルを努めてくれるように頼んだ。ベルトのスペイン風なエキゾティズムはマネを虜にした。「黒い帽子のベルト・モリゾ」(1872年)など1872年の7月から9月の間にベルトの肖像画が4点もある。マネとベルトとの恋の噂もあったが、1874年、ベルトは弟のウージェーヌ・マネと結婚した。ウージェーヌはベルトより8歳年長だった。健康にあまり恵まれなかったのと生来の気まぐれもあって、生涯いかなる職にもつかずディレッタントとして過ごした。モリゾは37歳で娘ジュリーが生まれた。「私の赤ちゃんは爪の先までマネです。もうこの子の叔父さまたちそっくり。私に似たところはまるでありません」と「エドマへの手紙」に書いている。ベルト・モリゾの54年の生涯は愛情に満ちた家庭と比較的恵まれた経済状態で幸福であったようだ。
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