ヨルダーンス「夫妻像」
ヨルダーンス 「夫妻像」
17世紀 ボストン美術館蔵
誇り高く落ち着き払いかつ富裕さの歴然とした若き夫婦を描いたこの美しい肖像画は、ヨルダーンスがその先輩でもありかつより有名な、同世代であったルーベンスやヴァン・ダイクの後を継いで、アントワープにおける評判高い肖像画家となった理由を、明確に示している。この作品は夫妻の人物描写において着想が率直でありかつ生気に溢れており、17世紀のフランドル芸術の特徴である健全さ、力強さを具えている。もちろんこの理念は、ヨルダーンスが助手として充分に吸収する機会を得たルーベンスの大芸術の、多大な影響を基礎に形成されたものである。この「夫妻像」が永い間ルーベンス自身の作と考えられていたという。
ヤーコブ・ヨルダーンス(1593-1678)はルーベンスやヴァン・ダイクと同時代に活躍した画家。アダム・ファン・ノートルに師事し絵画を学ぶ。1615年にアントワープの聖ルカ組合に認められ、翌年にはノートルの長女と結婚し、画家としての道を順調に歩みはじめる。以後、教会の注文による大規模な祭壇画やタペストリーの作成に携わるほか、ルーベンスの工房と共同でネーデルランドの総督でもあったフェルナンド枢機卿の同地入市に伴う装飾、スペイン国王フェリペ4世の住居を飾る神話画などの制作をおこない国際的に名声を手にし、同時期に大規模な工房をかまえた。彼の才能は多方面にわたるが、本質的には当時の市民的な基盤に立つもので、市民の日常生活の情景を描いた作品の秀作が多い。神話や古典に取材した作品にも現世的、風俗的な要素がしばしばうかがわれる。
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