天国に結ぶ恋
調所五郎、24歳、慶応義塾大学理財科3年生。湯山八重子、21歳、頌栄高女卒業生。二人が運命の出会いをしたのは、芝白金の三光キリスト教会だった。高女最上級生の八重子と、慶大にはいったばかりの五郎。八重子は五郎の眼差に、また五郎は八重子の楚々とした姿に、たちまち惹かれあった。
「ぼくは継母が嫌いなんだ」と五郎。八重子も、「卒業しても東京にいたいわ」と胸の悩みをうちあける。語り合い、いたわりあいしているうちに、愛情をおぼえ、恋を意識するようになった。が、逢瀬はつづかない。八重子が卒業と同時に、郷里静岡へ呼び戻されてしまったのである。「また今日も父からの結婚話。もう耐えられそうもありません。」八重子の苦しい心情は、そのまま手紙で五郎に伝えられたが、東京と静岡に離れていては、どうしようもない。
この間、八重子は思いきって五郎との結婚を父庄作に願い出たことがある。だが、当時は自由に恋愛が認められる時代ではない。一蹴されたばかりか、激しく罵倒される。しかも、それからというもの、五郎の手紙がプツリと途絶えてしまったのである。いまでは考えられないが、家人が手紙の抜き取りをやったのだ。そういったことを知ってから、八重子の五郎に対する思慕の情は急激に危険性を帯びていったのである。
「五郎さん、死にましょう。天国へ行ってあなたの妻にしてください」昭和7年5月、八重子は思いつめた表情で上京した。五郎との再会は、想い出の三光キリスト教会。「天国に結ぶ恋」と歌われ、映画にもなったこの二人の心中事件が、坂田山心中である。坂田山は神奈川県中郡大磯町にある。この年、坂田山では6月から12月までの間に20組の心中事件が発生した。(参考:「歌謡の百年 3」実業之友社)
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